奇妙な女

その女は突然話しかけてきた。今までほとんど話したこともないのに。勉強について聞かれたり、焦る気持ちや悩みを聞いたりした。教室で2人、話に耽る。受験生じゃなければこういうことから恋に発展するのかな、と恋愛素人の俺は思っていた。彼女は1人で居ることが多い自分に、積極的に話しかけてくれた女の数少ないうちの1人だ。俺は少しでも彼女の力になれていたかもしれない。でもそれ以上に自分を頼ってくる彼女に、自分も力をもらっていた。
文化祭の打ち上げの時に彼女は来れなかった。他の女子からは本人がいないのをいいことに「○○ってあるび君のこと好きなんじゃない?」と冷やかされた。それぐらいそのころには誰の前でも2人で蓮ことも多くなっていた。勉強のこと以外も、少しずつ。その場は適当にはぐらかしておいたが、気分は良かった。そんな気持ちはフラレタあの子についても同じような事を言われた時以来な気がした。
ある時、また二人で話していた。いやしい俺は彼女の胸元からのぞくものが気になってしまった。当たり前だけど、彼女は自分のことを1人の相談相手としか見ていなかった。他にも頼っている男はたくさんいた。相変わらずの自分の自惚れっぷりに吐き気がしてくる。受験勉強が進むにつれ、2人の会話は減っていった。メールアドレスなども知らず、近くなった距離はどんどん離れて行った。

そして卒業式前日。笑顔に満ち溢れた彼女は俺に一瞥もくれなかった。そして他の栄光をつかんだ相談相手と、合格体験記なんてどう書こうか、とでも言いたげな表情をしている。俺はそれを指をくわえて見ていることしかできなかった。
一体彼女にとって自分とは何だったのだろうか。他にも勉強ができるやつはゴロゴロいた中でなぜ接点も何もなかった自分なのか。確認する術は今や何もない。